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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)36号 判決

奈良県生駒郡斑鳩町大字目安二四三番地の一

原告

株式会社パロマインテックス

右代表者代表取締役

杉村建嗣

右訴訟代理人弁護士

国府泰道

松村信夫

大阪府豊中市上野東三丁目五番六〇号

被告

三光商事株式会社

右代表者代表取締役

天満康三

右訴訟代理人弁護士

中嶋邦明

松田成治

右輔佐人弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

一  被告は別紙目録の「商品名」、「商品の説明」欄記載の各商品にそれぞれ同目録の「被告の表示」欄記載の表示を使用してはならない。

二  被告はその広告、カタログ、伝票その他の印刷物から別紙目録の「被告の表示」欄記載の各表示を抹消せよ。

三  被告は原告に対し、金一〇三七万円及びこれに対する平成四年一月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  仮執行の宣言

第二  事案の概要

一  原告の商品(甲第一号証の1~3、証人山中俊通、弁論の全趣旨)

1  原告は昭和五一年五月に「株式会社杉村製作所」の商号で設立された会社で、平成三年一月に商号を現在の「株式会社パロマインテックス」に改めたものであり、カーテン縫製の副資材の製造・卸売を主たる業務としている。

2  原告は、平成二年一月頃から、カーテンにひだを付けるギャザーテープの一種で、カーテンに縦方向に縫い付けて下に凸のゆるやかな半波状のひだを付けるテープ(以下「原告テープ」という。)に「バルーンテープ」という表示を使用して販売している。

3  原告は、昭和五九年頃からプラスチック製の一本足のアジャスターフック(フックの位置が調節できるもの)を製造販売している。

そして、原告は、アジャスターフックについて、「AJP90W」「AJP75C」「AJS90」などというように規格表示を使用している。すなわち、いずれもアジャスターを示す「AJ」を用い、さらに樹脂製のものには「P」を、そのうち縫い込み式のものには「P」の代わりに「S」を付加し、続いて対応するカーテン芯地の幅を示す「90」又は「75」を、色の種類に応じて「W」(白色)又は「C」(透明)を表記している(以下、これらの表示を一括して「原告規格表示」という。)。

4  原告は、平成元年から、カーテンの縁取り用材(フレンジ)の一種で、レース状の装飾が施されレースのカーテンの縁取り用材として使用されるもの(以下「原告トリム」という。)に「レーストリム」という表示を使用している。

二  被告の行為(争いがない。)

1  被告は、昭和五八年一二月に設立され、カーテン、カーテンレール、ブラインド、カーテンフック、カーテンテープ、カーテンの縁取り用材等の室内装飾品の販売を業としているところ、平成三年一〇月頃、カーテン副資材の商品カタログ(甲第二号証。以下「被告カタログ」という。)を制作し、これをカーテン縫製業者等原告の取引先に配付し、販売活動をしている。

2  被告は、別紙目録添付の別紙(一)のごとき形態をした、カーテンにひだをつけるギャザーテープの一種で、カーテンに縦方向に縫い付けて下に凸のゆるやかな半波状のひだを付けるテープ(以下「被告テープ」という。)に「バルーンテープ」という表示を使用して販売している。

3  被告は、別紙目録添付の別紙(二)の中段及び下段のごとき形態をしたポリアセタール製、ポリカーボネイト製の差込み式アジャスターフックに「AJN75A」「AJN75B」「AJN90A」「AJN90B」「AJS75A」「AJS75B」「AJS90A」「AJS90B」という規格表示(以下「被告規格表示」という。)を使用して販売している(なお、原告は、被告は別紙(二)上段の写真のごとき形態をした縫い込み式アジャスターフックにも被告規格表示を使用していると主張するが、被告カタログ〔甲第二号証〕によれば、右縫い込み式アジャスターフックについては、「NK75」「NK90」「NKS90」という規格表示をしていることが認められ、他に被告規格表示を使用していると認めるに足りる証拠はない。)。

4  被告は、別紙目録添付の別紙(三)のごとき形態をした、カーテンの縁取り用材(トリム又はフレンジ)の一種で、レース状の装飾が施されレースのカーテンの縁取り用材として使用されるもの(以下「被告トリム」という。)に「レーストリム」という表示を使用して販売している。

三  原告の請求

原告は、

「バルーンテープ」という表示は原告テープの、「レーストリム」という表示は原告トリムの各商品表示であり、原告規格表示は原告の販売するアジャスターフックの規格表示であるとともに併せて商品表示としての機能(自他商品識別力ないし出所表示機能)を取得しており、これらの商品表示(以下、総称するときは「原告表示」という。)はいずれも需要者の間に広く認識されているところ(いわゆる周知性を獲得)、被告が被告テープ、被告トリムにそれぞれ使用している「バルーンテープ」、「レーストリム」という表示は原告使用の各商品表示と同一であり、被告がアジャスターフックに使用している被告規格表示は原告規格表示と極めて類似しているから、原告の各商品(以下、総称するときは「原告商品」という。)との間で混同を生じ、原告は営業上の利益を侵害されていると主張して、

不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、別紙目録の「商品名」、「商品の説明」欄記載の各商品(正確な特定は、前記二の2ないし4のとおりの被告テープ、差込み式及び縫い込み式のアジャスターフック、被告トリム。以下、総称するときは「被告商品」という。)に、それぞれ同目録の「被告の表示」欄記載の「バルーンテープ」という表示、被告規格表示、「レーストリム」という表示(以下、総称するときは「被告表示」という。)を使用することの差止め、及び被告の広告、カタログ、伝票その他の印刷物からの被告表示の抹消を求めるとともに、

原告はカーテン副資材の販売会社として幅広く営業し、その商品もカーテン製造業界に広く販売されているから、被告が原告商品及び原告表示を知っていたことは明らかであり、右不正競争行為につき故意があると主張して、

同法四条に基づき、被告が被告商品の販売により得た利益の額相当の損害金と弁護士費用の合計一〇三七万円の賠償及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成四年一月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。

四  争点

1  原告表示は、商品表示性を有し、周知性を取得しているか。

2  「バルーンテープ」、「レーストリム」の各表示は不正競争防止法一一条一項一号の普通名称に該当するか。

3  被告商品に被告表示を使用することにより、原告商品との混同を生じるか。

4  被告は現在被告表示の使用を停止しているか。使用の差止めの必要性があるか。

5  被告が損害賠償責任を負う場合に、被告が原告に賠償すべき損害の額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(原告表示は、商品表示性を有し、周知性を取得しているか)

【原告の主張】

1 「バルーンテープ」の表示について

(一) 原告テープは、それ自体にカーテンの昇降を行う機能はなく、一般にカーテンにひだを付けるために使用されるギャザーテープの一種であり、したがって、バルーンカーテンやバルーンシェードに使用されることは少なく、むしろオーストリアンタイプのシェード及びカーテンに使用されるものである。

(二) 原告は、住宅の高級化傾向に伴いカーテンはローマンシェードが伸びるものと予想し、平成二年一月頃、原告テープをローマンシェード型カーテン用資材として大規模に売り出すに際し、従来のギャザーテープという名称で販売するのでは宣伝として弱いため、日本人になじみやすく、しかも他と容易に識別が可能なネーミングを検討した結果、「バルーンテープ」という造語商標を考案し、これを原告テープの表示として使用して原告テープを高級感ある資材として打ち出した。原告テープのようなギャザーテープを国内で大々的に売り出したのは、原告が最初である。

(三) 原告は、「バルーンテープ」の表示を一般に周知させるため、原告が自社の商品の内容及び規格性能等の広告を行うために毎年度発行している商品カタログ(以下「原告カタログ」という。)の九〇・九一年度版(平成二年一月三一日発行)及び九一・九二年度版(平成三年一月二一日発行)にそれぞれ「バルーンテープ」の商品表示を見出しにした原告テープを写真入りで掲載した。そして、原告は、原告カタログ九〇・九一年度版を約五〇〇〇部、原告カタログ九一・九二年度版を約八〇〇〇部印刷し、カーテンの製造業者及び販売業者等の需要者に対してくまなく頒布し広告宣伝活動を行った。また、原告は、原告カタログ九〇・九一年度版を、平成二年二月一日から同月四日までの間東京で開催された室内インテリア商品に関する見本市「ジャパンテックス九〇」(出展企業三四七社、入場者延べ約九万人)において配布し、原告カタログ九一・九二年度版を、平成三年一月三一日から同年二月三日までの間幕張で開催された「ジャパンテックス九一」において配布した。

以上のような広告宣伝活動の結果、「バルーンテープ」の表示は、平成二年二月四日頃若しくは平成三年二月三日頃、又は遅くとも被告が被告カタログを制作し「バルーンテープ」の表示の使用を開始した平成三年一〇月頃までには、カーテン資材を購入するカーテンの製造業者及び販売業者等の間において原告の販売する原告テープを表示するものとして周知性を取得するに至った。

2 原告規格表示について

原告規格表示は、以下のとおり、商品表示性、周知性を取得している。

(一) 原告規格表示の顕著性

原告は、アジャスターフックの規格表示のために原告規格表示を用いることにより、当該商品の用途、材質、長さ等を一見して判別できるように工夫している。原告規格表示は、このように、原告がその表示中にアジャスターフックの品質用途に関する重要な情報を簡略に余すところなく表現するよう考慮を巡らして創作したものであり、極めて創作性の強い特別顕著性を有する表示である。

(二) 原告による独占使用

原告は、前記のとおり昭和五九年頃からプラスチック製の一本足のアジャスターフックを製造販売しているが、このようなアジャスターフックを日本で製造販売したのは原告が最初である。「アジャスターフック」という名称も、当時某社が販売していた伸縮式カーテンレール「アジャスター」にヒントを得て、原告が創作したものである。その後、後発企業が同種商品を販売するのに「スライドフック」の名称を用いるものがあったが、原告が八、九割の市場占有率を有していることから、アジャスターフックの名称が一般化してきたものである。

そして、原告は、アジャスターフックの発売から現在に至るまで、原告規格表示を一貫してカタログ、納品証、伝票等に使用しており、原告の取引先も原告に対する発注書や伝票その他の取引書類の中で、原告の販売するアジャスターフックの表示としてひんぱんに使用している。原告以外のアジャスターフックの製造販売業者は、装研株式会社、有限会社友安製作所、被告の三社であるが、被告を除く二社は、全く異なる規格表示を使用しており、「AJ」を用いるような類似の規格表示は使用していない。

規格表示に関しては、一般にその自由使用を保障する必要上、特定人の独占使用に委ねることは公益上も妥当でないとの反論も考えられないでもないが、原告規格表示に関しては、原告が独自の工夫をこらして創作したものであって、その構成等も他にみられない顕著性があるのであり、現に右のように原告及び被告以外のアジャスターフックの製造販売業者は原告規格表示とは全く異なる規格表示を使用していることから明らかなとおり、アジャスターフックの規格等を表すためには表示方法に選択の余地があるのであるから、原告の独占的使用を許したとしても、何ら弊害は生じない。

(三) 使用による自他商品識別力の取得

原告は、アジャスターフックに関してはわが国における全生産量の七割を生産している業界のトップメーカーであり、そのアジャスターフックはカーテン等の製造メーカーや問屋、量販店だけではなく、末端のカーテン縫製業者にも広く使用されており、原告の取引先は日本全国にわたり一〇四九社の多きに上っている(甲第一一号証の販売網分布表)。

原告は、これらの取引において、原告規格表示を、自己のオリジナルブランドのアジャスターフックの商品表示として、各種の広告文書や納品書、伝票等の取引書類においてひんぱんに使用し、昭和六二年七月発行の八七・八八年度版以降毎年、主力商品としてアジャスターフックを宣伝する際に必ず使用するなどして、宣伝と普及に努めた。その結果、これらの取引業者の間では、原告規格表示は原告の商品表示として使用され、あるいは認識されている。すなわち、原告の製造するアジャスターフックには自社ブランド商品とOEM(相手先ブランドによる供給)生産のものがあるが、原告に対する自社ブランド商品の注文伝票(甲第一二号証の1~31、第一三号証の1~51、第一四号証の1~65、第一五号証の1~55、第一六号証の1~43、第一七号証の1~50、第一八号証の1~37)の記載によれば、「アジャスタ」という表示のみのものが全部で七七例あり、例えば「アジャスタフックⅡ白七五m/mB」との記載(甲第一二号証の7)のように、規格表示としては「Ⅱ」(タイプⅡ)、「白」、「七五m/m」、「B」が使用され、「AJP」「AJS」は規格表示としては使用されていない。このように「AJP」「AJS」が規格表示としては用いられていない例は、右注文伝票の全三三二例のうち、「AJOO」型の表示のもの一五九例と、右「アジャスタ」型の表示のもの七七例の合計二三六例である。「アジャスターフックAJPOO」「アジャスターフックAJSOO」という併用型の表示のものは、「AJPOO」「AJSOO」が単なる規格表示として使用されているように窺えるが、これは九六例にすぎない(なお、OEMにかかるアジャスターフックについては、注文主のブランド名が使用される。)。

この一事をとっても、原告規格表示が単なる規格表示としての機能を超えて商品表示としての自他商品識別力を具有するに至っていることが明らかである。

また、原告のアジャスターフックの荷送用パッキングケース(検甲第一号証の1・2)には、商品名が全く表示されておらず、「AJP90」「AJP75」という原告規格表示のシール(検甲第四号証)を貼りつけて商品表示としている。アジャスターフックという表示は一切ないが、顧客には「AJP」の記載によって原告製造のアジャスターフックであることが一目で分かるのである(その点で、カーテンフックについては、検甲第二、第三号証のように「カーテンフック」と表示したうえでその品番を記載しているのと対照をなしている。)。

(四) 周知性

原告は、原告規格表示を原告カタログ八七・八八年度版以降すべての原告カタログに使用しており、原告カタログ八九・九〇年度版(昭和六四年一月五日発行)を平成元年一月二六日から同月二九日までの間開催された「ジャパンテックス八九」において配布し、また、前記1(三)のとおり、原告カタログ九〇・九一年度版を「ジャパンテックス九〇」において、原告カタログ九一・九二年度版を「ジャパンテックス九一」において各配布した。

その結果、原告規格表示は、平成二年二月四日頃若しくは平成三年二月三日頃、又は遅くとも被告が被告カタログを制作し被告規格表示の使用を開始した平成三年一〇月頃までには、カーテン資材を購入するカーテンの製造業者及び販売業者等の間において原告の販売するアジャスターフックを表示する商品表示として周知性を取得するに至った。

3 「レーストリム」の表示について

(一) 従来、わが国ではカーテンの縁取り用材は「フレンジ」という名称で呼ばれてきたが、原告は、平成元年初めから、国内で最初に、フレンジの一種として原告トリム、すなわちレース状の装飾が施されたレースのカーテンの縁取り用材の販売を開始するに当たり、その特徴ある外観に応じた名称として「レーストリム」という表示を考案した。

(二) 原告は、「レーストリム」の表示を原告カタログ八九・九〇年度版以降すべての原告カタログに使用しており、前記2(四)及び1(三)のとおり、原告カタログ八九・九〇年度版を「ジャパンテックス八九」において、原告カタログ九〇・九一年度版を「ジャパンテックス九〇」において、原告カタログ九一・九二年度版を「ジャパンテックス九一」において配布した。

(三) 以上の宣伝広告、販売活動の結果、「レーストリム」の表示は、平成二年二月四日頃若しくは平成三年二月三日頃、又は遅くとも被告が被告カタログを制作し「レーストリム」の表示の使用を開始した平成三年一〇月頃までには、カーテン資材を購入するカーテンの製造業者及び販売業者等の間において原告の販売する原告トリムを表示するものとして周知性を取得するに至った。

【被告の主張】

1 「バルーンテープ」の表示及び「レーストリム」の表示について

原告の主張は争う。

「バルーンテープ」の表示及び「レーストリム」の表示が普通名称にすぎないことは、後記二【被告の主張】1及び2記載のとおりである。

2 原告規格表示について

原告規格表示はあくまで規格表示であり、自他商品の識別機能を果たす商品表示として使用されているものではない。

(一) 原告は、原告規格表示は、原告が独自の工夫をこらして創作したものであって、顕著性があり、アジャスターフックの規格等を表すためには表示方法に選択の余地があるから原告の独占的使用を許したとしても何ら弊害は生じない旨主張する。

しかし、原告規格表示中の「AJ」は、親しまれた英語「アジャスター(adjuster)」の語頭二文字であって、採用されやすいものであり、また、品番中に「75」「90」といったサイズを読み込むこともありふれたことであるから、原告規格表示はそれほど格別なものではない。

のみならず、不正競争防止法は、規格表示の創作性を保護するものでないことはいうまでもないから、原告の右主張は失当というほかはない。規格表示は、自他商品識別標識として使用されるものではなく、規格表示そのものの自他商品識別力を論じるのは無意味である。

(二) 原告規格表示が商品表示としての自他商品識別力を具有するに至っていることの証左として原告の援用する甲第一二号証の1~31、第一三号証の1~51、第一四号証の1~65、第一五号証の1~55、第一六号証の1~43、第一七号証の1~50、第一八号証の1~37は、その作成年月日の記載のあるものに限ってみても、すべて平成四年一月から一〇月までに作成されたものであるから、被告規格表示の使用前に原告規格表示が使用されていた事実すら明らかにするものではない。

しかも、これらが仮に原告主張のとおり原告に対するアジャスターフックの注文伝票であるとしても、これらは、アジャスターフックが原告の商品であることを知悉する発注者が、その品番等を用いて原告に直接発注していることを明らかにするに止まる。そして、原告規格表示のような品番表示は多種多様な取扱商品の中から商品を特定するために用いられるものであるところ、右注文伝票のうち原告規格表示を用いた事例も、単に品番表示が右の本来の用法どおりに用いられたことを示すにすぎず、これを超えて、発注した特定商品(アジャスターフック)が原告の取扱いに係るものであることを表示し、原告の取扱いに係る商品と原告以外の者の取扱いに係る商品とを識別するために用いられたことを示すものではない。

甲第一一号証の販売網分布表も、単に原告の平成五年一月現在の得意先数を示すにすぎず、その得意先がすべて原告のアジャスターフックの販売先であるかどうかは分からない。

(三) また、原告カタログ八七・八八年度版には、原告の取り扱うアジャスターフックとして、原告製のものと常磐商事株式会社等の他社製のものが掲載されているが、これらのアジャスターフックには原告主張の「AJSOO」なる表示は一切ない。

「AJPOO」なる表示は、原告製のものについて「品番」と明示して記載されているものの、他社製のものについては記載されていない。

したがって、少なくとも昭和六二当時に下っても、「AJPOO」なる原告規格表示は、原告取扱いのアジャスターフックの一部について、その「品番」として使用されていることがあるにすぎず、他社製のものを含めた原告取扱いのアジャスターフックのすべてに用いられる品番ではなかったことが窺われ、まして自他商品識別標識として使用されている事実はない。

二  争点2(「バルーンテープ」、「レーストリム」の各表示は不正競争防止法一一条一項一号の普通名称に該当するか)

【被告の主張】

1 「バルーンテープ」の表示について

「バルーンテープ」は、「バルーンカーテン」の製作に適した特殊なギャザーテープを表す普通名称である。

(一) バルーンカーテン

カーテン(広義)には、固定式のカーテン(狭義)と昇降可能なシェードがあるが、バルーンカーテンとは、この狭義のカーテンのうち、裾に横方向の下に凸のゆるやかな半波状の連続した丸いひだを付したものをいう(このゆるやかな丸いひだの部分をバルーン〔balloon風船〕に見立てたものである。)。

このカーテンは、「バルーンカーテン」といわれたり(乙第六号証)、バルーンスタイルのレースのカーテンであることを強調するために「バルーンスタイルレースカーテン」といわれたり(乙第七号証)、単に「バルーン」といわれたりするが(乙第八号証)、いずれも「バルーン」の語を用いたものであり、「バルーンカーテン」といえばその商品が理解できるから、「バルーンカーテン」はこのカーテンの普通名称である。

(二) 原告テープ、被告テープの本来の用途

(1) 原告テープ、被告テープは、テープを手繰り寄せるための紐を長さ方向に内蔵した細幅のテープであり(甲第一号証の3二五頁、甲第二号証一八頁)、カーテン生地に縦方向に適宜間隔を開けて並列に多数縫い付け、テープに内蔵した紐を適宜手繰り上げて固定することにより、カーテンの裾に横方向の下に凸のゆるやかな半波状の連続した丸いひだを付すために使用されるものである(乙第九ないし第一一号証)。

なお、この内蔵の紐は、カーテンを手繰り上げるためにのみ使用するものであり、カーテンを昇降するためのものではない。カーテンの昇降用には、別途、昇降用のコード及びこのコードを保持するためのリングテープが使用される(甲第一号証の3の原告カタログ九〇・九一年度版二五頁「バルーンテープ」の項左欄の表下の注意書にも、「バルーンテープでは昇降できません。」と記載されている。)。

(2) 原告テープ、被告テープは、右のようにカーテンに縫い付けて裾部分を手繰り上げて固定するものであり、これを用いることによりバルーンカーテンを容易に製作することができるから、バルーンカーテンに用いられるテープということができる。

また、カーテンの裾部分だけでなく、長く上方まで手繰り上げると、カーテン全面に横方向の下に凸のゆるやかな半波状の連続した丸いひだを付することができるから、原告テープ、被告テープは、このようなカーテン、すなわちオーストリアンカーテンやオーストリアンシェードの製作にも使用することはできるが、実際には、諸種の理由により、オーストリアンカーテンやオーストリアンシェードの製作にはあまり用いられない。

原告カタログ九〇・九一年度版の「バルーンテープ」の項には、「ローマンスタイルカーテンのオーストリアンタイプの使い方のできるバルーンタイプ専用テープです。」との記載があり(甲第一号証の3二五頁)、被告カタログの「バルーンテープ」の項にも、「オーストリアンカーテン、バルーンカーテンの簡単なスタイルカーテンの使い方ができ」との記載があるところ(甲第二号証一八頁)、これらの記載は、右の「バルーンテープ」の用途を端的に表現したものであると容易に理解することができる。原告は、原告カタログ九〇・九一年度版の右記載は、カーテンの種別について正確な知識を持ち合わせていないカタログ制作会社有限会社アングルの担当者による誤記である旨主張するが、原告自身、訴状において「バルーンテープは…バルーン型のカーテンを造るためのギャザーテープである。バルーンテープを使用することにより、簡易な方法でバルーン型カーテンを製作できる点が特徴である。」と記載しているのであるから、失当である。

(3) 甲第六号証(業界紙「インテリアタイムス」平成三年一〇月一六日号)に詳述されている「ローマンシェード」は、前記(一)の昇降可能なシェードのことであり、昇降コード等が適宜間隔を開けて縫い付けられ、この昇降コードの操作によって昇降させる。そのタイプによってプレーンシェード、バルーンシェード及びオーストリアンシェードの三種に分けられている。

原告テープ、被告テープは、これらのローマンシェードのうち、オーストリアンシェードの製作に使用されることもありうることは右(2)のとおりであるが、他のバルーンシェードやプレーンシェードの製作に用いられることはない。すなわち、バルーンシェードは、上昇させたときには、各昇降コードによりシェードの裾の部分が持ち上がり、その間の裾が自重(あるいは裾に縫い付けたウエイト)で垂れ下がることにより、裾にゆるやかな丸いひだが作出され、下に降ろしたときにはこのゆるやかな丸いひだは消失する点に特徴がある。したがって、裾に作出される右のようなゆるやかな丸いひだは、原告テープ、被告テープを用いて付するものではない。原告テープ、被告テープを縫い付けて裾に恒常的な右のようなゆるやかな丸いひだを付すと、そのひだはシェードの昇降にかかわらず消失しないから、それはもはやローマンシェードの一種としてのバルーンシェードではない。また、プレーンシェードは、下げたときは平面な状態で、引き上げるとたるみが生じる最もシンプルなタイプのローマンシェードであるから、その製作に原告テープ、被告テープが用いられることはない。

(4) これに対し、ギャザーテープは、広義には原告テープ、被告テープのような「バルーンテープ」も含むが、通常、カーテンに縦方向のひだ(プリーツ)を付すためにカーテンの上端に横方向に縫い付けて使用する幅の広いテープを指し、ギャザーフック(カーテンレール等にカーテンを吊り下げるのに用いるフック)の差込み用のポケットを備えている。原告カタログ九〇・九一年度版の「ギャザーテープ」も(甲第一号証の3二二頁~二四頁)、被告カタログの「ギャザーテープ」も(甲第二号証一六、一七頁)、この狭義の意味で用いられている。

このような狭義のギャザーテープは、バルーンカーテンの製作には通常用いられない。

(三) 「バルーンテープ」が普通名称であること

(1) 原告テープ、被告テープは、前記のとおりバルーンカーテンの製作に用いられる特殊なギャザーテープであり、カーテンの製造に用いる副資材であるから、その一般的、平均的な需要者、取引者はカーテンの製造メーカーやこのメーカーを取引先とする卸業者等の専門家に限られるきわめて特殊な商品である。

そのため、これらの商品知識の豊富な専門家にとって「バルーン」はバルーンカーテンを意味し、また、「テープ」は普通名称であるから、これらの語を単純に結合したにすぎない「バルーンテープ」の表示は、その表示に係る商品がバルーンカーテンの製作に用いられるテープであると容易に理解されるのであって、その用途等の実体を端的に表現するものとして、原告テープ、被告テープの普通名称であるということができる。

(2) 原告自身も、狭義のギャザーテープと「バルーンテープ」を区別して、原告カタログ九〇・九一年度版にそれぞれの項を設けて別途掲載している。この事実に照らしても、「バルーンテープ」の名称が、「ギャザーテープ」の名称とともに普通名称であることは明らかである。

(3) なお、普通名称は一つの物について一つとは限らないのであって、略称、別称、愛称等も本来の名称とともに、下位概念も上位概念とともにそれぞれ普通名称たりうるのである。

例えば「チョコ」のような略称は、取引界においてその商品の一般的な名称として理解されている限り、本来の名称(「チョコレート」)とともに普通名称である。

また、「テレビ」は、その機能等に応じて「カラーテレビ」、「白黒テレビ」、「液晶テレビ」ともいわれている。これらの名称は上位概念と下位概念という関係にあるが、いずれもすべて普通名称であり、このうちの一つが普通名称であればその他は普通名称でないという択一関係にはない。

してみれば、これらと同様に、上位概念の「ギャザーテープ」が普通名称であるからといって、下位概念の「バルーンテープ」が普通名称でないとはいえない。

2 「レーストリム」の表示について

「レーストリム」は、レースのカーテンの製作に用いられる「トリム」(縁取り材)を表す普通名称である。

(一) カーテンの縁取り用材は、取引市場において、一般に、「トリム」あるいは「フレンジ」の普通名称で呼ばれている。「トリム」は英語「trim」がその発音のまま普通名称として日本語化したものである。

したがって、レースのカーテンに用いられる縁取り用材は、従来から、「トリム」、「レース用トリム」あるいは端的に「レーストリム」と呼ばれていたのである。

要するに、「レーストリム」の表示は、レースのカーテンあるいはレース生地を意味する「レース」と、普通名称である「トリム」とを単純に結合したものにすぎず、その商品がレースのカーテンの製作に用いられるトリムあるいはレース生地のトリムであると理解されるのであって、その商品の実体を端的に表現したものであるから、普通名称である。

(二) なお、普通名称は一つの物について一つとは限らないのであって、上位概念の「トリム」が普通名称であるからといって、下位概念の「レーストリム」が普通名称でないとはいえないことは、前記1(三)(3)記載の「バルーンテープ」の場合と同様である。

【原告の主張】

1 「バルーンテープ」の表示について

原告テープ、被告テープは通常のギャザーテープにすぎず、その普通名称は「ギャザーテープ」であって、「バルーンテープ」は原告テープ、被告テープの普通名称ではない。

(一) 不正競争防止法一一条一項一号にいう普通名称

不正競争防止法一一条一項一号が普通名称・慣用表示の普通使用を同法二条一項一号等の適用除外としているのは、それが普通に使用される方法、態様をもって使用される限り、商品の出所や品質等に関して混同・誤認の生ずるおそれがないとの理由による。したがって、ある名称が「普通名称」であるか否かを判断するに当たっては、当該名称の言語的性格を抽象的に観察するだけではなく、その取引関係等、諸般の事情を総合的に勘案しなければならない。

(二) バルーンカーテン

被告は、乙第六ないし第八号証を援用して「バルーンカーテン」は普通名称である旨主張するが、右乙第六号証は平成六年三月頃、乙第七号証は平成四年六月頃、乙第八号証は平成五年一一月頃にそれぞれ作成されたもの、すなわち、いずれも本件で問題となっている原告カタログ及び被告カタログが作成された時期よりもかなり後になって作成されたものである。

そもそも、スタイルカーテンの呼称については、かねてより統一的なものがなかったことから(例えば、オーストリアンタイプは「ちりちり」、バルーンタイプは「絞り上げ」と呼ばれていた。)、平成三年一〇月頃に日本インテリアファブリックス協会が呼称統一をしたのであり、以来、「オーストリアン」とか「バルーン」とかいう呼称が一般的に用いられるようになったものである。

その際、昇降を目的とするカーテン(ローマンシェードタイプ)のうち、「シェードを下げたときは普通のひだのついたカーテンと同じ」で、「少し上げた状態にすると裾にふっくらとした丸みができ、ボリューム感が生まれる」ものを「バルーン」ないし「バルーンシェード」と呼称するように統一されたのであるが、未だそれが業界において一般に定着しているとはいい難い。まして「バルーンカーテン」という名称については、この呼称統一の時点でも昇降式ではない「バルーン型カーテン」を表示する普通名称として使用されていないことは明らかである。わが国では、従前、バルーンタイプのカーテン(広義)の大半は昇降が可能なローマンシェードタイプのものであったため、「バルーンシェード」という呼称は使用されても、「バルーンカーテン」という呼称はほとんど使用されてこなかったのである。

したがって、乙第六ないし第八号証は右呼称統一後のものであって、被告カタログが配布された平成三年一〇月から半年ほど遡ることになると思われるその制作当時は、「バルーンカーテン」という名称は必ずしも一般的なものではなく、普通名称であるとはいえない。

(三) 原告テープ、被告テープの本来の用途

(1) 原告テープ、被告テープは、それ自体にカーテンの昇降を行う機能はなく、一般にカーテンにひだを付けるために使用されるギャザーテープの一種であり、したがって、バルーンカーテンやバルーンシェードに使用されることは少なく、むしろオーストリアンタイプのシェード及びカーテンに使用されるものである(前記一【原告の主張】1(一)参照)。

被告は、原告テープ、被告テープは実際上専らバルーンカーテンに用いられる旨主張するようであるが、原告カタログ九〇・九一年度版、被告カタログとも、オーストリアンカーテン(広義)の写真を掲載したうえで、これに用いるテープとして原告テープ、被告テープを紹介しているのであるから、右主張は誤りである。

(2) 被告は、原告カタログ九〇・九一年度版の「バルーンテープ」の項の「ローマンスタイルカーテンのオーストリアンタイプの使い方のできるバルーンタイプ専用テープです。」との記載は右「バルーンテープ」の用途を端的に表現したものである旨主張する。しかし、右記載は、カーテンの種別について正確な知識を持ち合わせていないカタログ制作会社有限会社アングルの担当者が、あいまいな知識に基づいてそれらしきことを記載したいわば誤記とでもいうべきものであり、意味不明なものである(すなわち、バルーンタイプとオーストリアンタイプを同義のものと理解しているのであれば明らかに誤りであるし、両者が別のものであることは認識しつつ、当該テープは本来バルーンタイプ用のものではあるがオーストリアンタイプにも転用が可能であるとの見解に立つものであれば、同所に掲載されているバルーンテープの使用例の写真はいずれもオーストリアンタイプのものであるから、写真と全く一致しない記載となる。)。このような意味不明の記載を自己の主張の根拠にすること自体、被告の主張が根拠のないものであることを明らかにするものである。

(四) 「バルーンテープ」が普通名称とはいえないこと

(1) 被告は、原告テープ、被告テープはバルーンカーテンの製作に用いられる特殊なギャザーテープであり、「バルーンテープ」の表示は、カーテンの製造メーカーやこのメーカーを取引先とする卸業者等の専門家に限られるその需要者、取引者にとってその表示に係る商品がバルーンカーテンの製作に用いられるテープであると容易に理解されるのであって、その用途等の実体を端的に表現するものとして原告テープ、被告テープの普通名称である旨主張する。

しかし、「バルーンカーテン」という呼称自体がほとんど使用されてこなかったことは前記(二)のとおりであり、また、原告テープ、被告テープがオーストリアンタイプのシェード及びカーテンに使用されるものであることは前記(三)(1)のとおりであるから、被告の主張は前提を欠く。原告テープ、被告テープは、ローマンシェード、特にオーストリアンシェードに使用されるギャザーテープの一種であるから、普通名称についての被告の論法に従えば、むしろ「たて型ギャザーテープ」、「ローマンシェードテープ」、「オーストリアンテープ」とでも称すべきものである。

(2) 被告の主張は、ギャザーテープとは別にバルーンテープなる特殊な商品群があることを前提とするもののようであるが、それ自体が誤りである。カーテンにひだを付けるためのテープがギャザーテープであり、これの比較的幅が狭く(二〇ないし三〇ミリメートル)かつシンプルな折り目のものを縦に使用すれば、オーストリアンタイプのカーテンやシェードを作ることができるというだけのことである。原告は、前記一【原告の主張】1(二)のとおり、原告テープをローマンシェード型カーテン用資材として大規模に売り出すに際し、従来のギャザーテープという名称で販売するのでは宣伝として弱いため、日本人になじみやすく、しかも他と容易に識別が可能なネーミングを検討した結果、「バルーンテープ」という造語商標を考案したものである。すなわち、商品自体はギャザーテープそのものであり、本来何ら新たな商品名の必要はないのである。したがってまた、被告主張のように「バルーンテープ」は「ギャザーテープ」の下位概念であるということもない。

現に、原告テープと同種のテープを「バルーンテープ」と称して販売している業者は被告以外にほとんどなく、取引者・需要者の認識においても、「バルーンテープ」なる名称は、原告の商品の名称(表示)であるとの認識はあっても、それが同種のテープに用いられる普通名称であるとの認識はない(甲第四一、第四二、第四五、第四七号証)。前掲乙第六号証においても、バルーンカーテンに用いるテープのことを「ギャザーテープ」と表示しており、普通名称としては「ギャザーテープ」という名称が一般的であることを示している。

(3) 以上のように、「バルーンテープ」の表示は、当該商品の用途等を記述的・説明的に表示するものではなく、また、原告テープ、被告テープ及びこれと同種のギャザーテープの取引者・需要者によって特定の種類の商品を表す普通名称と認識され使用されているわけでもないので、不正競争防止法一一条一項一号にいう普通名称ではない。

2 「レーストリム」の表示について

前記一【原告の主張】3(一)のとおり、従来、わが国ではカーテンの縁取り用材は「フレンジ」という名称で呼ばれてきたが、原告は、平成元年初めから、国内で最初に、フレンジの一種として原告トリム、すなわちレース状の装飾が施されたレースのカーテンの縁取り用材の販売を開始するに当たり、その特徴ある外観に応じた名称として「レーストリム」という表示を考案したものである。

すなわち、カーテンの縁取り用材は、ヨーロッパでは「トリム」と呼んできているが、わが国では「フレンジ」と呼んできており、「トリム」の呼称は一般的ではなかった。もちろんわが国においてもヨーロッパにならって「トリム」と呼称する業者もあったが、その場合「フレンジ」の用語に代えて用いるのであり、「フレンジ」と併用することはなかった。原告は、原告トリムを販売するに当たって、従来のフレンジから一歩踏み込み、ヨーロッパから輸入したレース編みの高級品であることを打ち出して印象付けるため、「レーストリム」と命名したのである(フレンジという語を用いないで、トリムという語を用いることによりヨーロッパ製であることを表現している。)。他の縁取り用材は「フレンジ」と呼称し、レース編みの高級品に限定して「レーストリム」と呼称しているのである。

したがって、「レーストリム」は普通名称ではない。現に、これが普通名称として使用されている例は本場のヨーロッパにおいては皆無であるし、わが国においても、一社が原告を真似て使用しているにすぎない。

三  争点3(被告商品に被告表示を使用することにより、原告の商品との混同を生じるか)

【原告の主張】

1 被告は、被告テープ、被告トリムについて、それぞれ原告が使用しているのと同一の「バルーンテープ」、「レーストリム」の表示を使用している。

被告がアジャスターフックに使用している被告規格表示は、原告がアジャスターフックに使用している原告規格表示と極めて類似している。すなわち、原告規格表示のうち特に顕著な要部は、アジャスターを示す「AJ」、差込み式又は縫い込み式の違いを示す「P」又は「S」、対応するカーテン芯地の長さを示す「90」又は「75」の各表示及びその配列方法(表記方法)であるところ、被告規格表示は、冒頭から順に「AJ」、ローマ字一文字の「N」又は「S」、長さを示す「90」又は「75」というアラビア数字で構成されている。したがって、一般需要者ないし取引者が、時と場所を異にして両表示を見れば、これを同一と誤認することは明らかである。

2 被告の販売する被告テープ、アジャスターフック及び被告トリムは、それぞれ原告の販売する原告テープ、アジャスターフック及び原告トリムと用途、機能、形態が同一である。

被告は、原告の取引先であるカーテン製造販売業者に対し、被告カタログに掲載する等の方法により被告表示を使用して被告商品を販売している。

このように、被告は、原告商品と同種の被告商品について、原告表示とそれぞれ同一又は極めて類似する被告表示を使用して広告宣伝、販売をし、原告商品と混同を生じさせている。

【被告の主張】

1 被告規格表示を原告規格表示と対比すれば、両者は、その外観、称呼、観念のいずれにおいても相紛れるおそれのない非類似のものであるから、出所の混同を生ずるおそれはない。

原告は、被告規格表示が原告規格表示と類似する理由として、「AJ」のアルファベットのほか、「90」又は「75」の数字を共通にすることを挙げるが、この数字の部分は、当該商品が「90㎜」又は「75㎜」の縫い込み幅でカーテンに取り付けるものであることを表す単なる品質表示にすぎず、これによって商品の出所を識別できるものではないから、右数字部分を共通にするとしても、出所表示として紛らわしいとはいえない。

2 不正競争防止法二条一項一号にいう他人の商品との混同のおそれは、商品の出所について混同が生じる蓋然性があれば足りるが、この蓋然性は抽象的、観念的なものであってはならず、現実的、具体的なものでなくてはならない。しだがって、この混同のおそれの有無は、商品の種類や、商品の一般的、平均的な需要者、取引者の知識の程度・注意力、取引の態様等に照らし、現実的、具体的な事実に即して合理的に判断しなければならず、具体的な事案を離れて単に抽象的、観念的に判断すべきものではない。

しかして、原告商品、被告商品は、いずれもカーテンの製造に用いる副資材であって、極めて特殊な商品であり、その一般的、平均的な需要者、取引者は、カーテンの製造メーカーやこのメーカーを取引先とする卸業者等であり、これらの商品に関して豊富な知識を有している。しかも、カーテンの製造メーカーは、自社のカーテンに適した商品を選択するため、その規格や品質、価格、デザイン、製造元等を吟味し、あるいは既存の取引関係を重視して、その既存の取引先からしか購入しないことが少なくない。

したがって、このような商品の一般的、平均的な需要者、取引者は、被告表示に接しても、単にこれらの表示のみに基づいて取引をするわけではない。原告の顧客も、ひんぱんに反復して注文する商品以外は、原告カタログの記載に基づいて注文するのであるから、商品の出所が原告であることを確認した上で取引するのである。

このような現実的、具体的な取引状況のもとにおいては、需要者、取引者は、被告が被告商品に被告表示を使用したからといって、それだけで直ちにその出所が原告であるかのように誤信することはないのであって、原告商品との混同を生じる余地はない。

四  争点4(被告は現在被告表示の使用を停止しているか。使用の差止めの必要性があるか)

【原告の主張】

平成六年四月ないし七月頃、原告の取引先である「有限会社なる良」に、甲第五二号証の2・3のカタログが送付されてきた(同号証の1)。カタログの内容からみて、送付者は被告であると思われる。

そのうち、同号証の2は、被告が新たに制作したカタログであると思われるが、これによれば、被告規格表示「AJOO」及び「レーストリム」の表示が使用されなくなっており、「バルーンテープ」の表示についてはそもそも被告テープの商品自体が掲載されていない。これは、被告自身も被告表示の使用が不正競争行為に該当することを自認して、右の新しいカタログではその使用を停止したものであると思われる。

しかし、同時に甲第五二号証の3(被告カタログ)も送付されてきているのであるから、被告が新たに同号証の2のカタログを制作したからといって、直ちに差止めの必要性が消滅したわけではなく、依然その必要性があるというべきである。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

五  争点5(被告が損害賠償責任を負う場合に、被告が原告に賠償すべき損害の額)

【原告の主張】

1 被告が被告商品の販売により得た利益の額相当の損害金

被告商品の月間売上高、利益率及び利益は、それぞれ次のとおりである。

月間売上高 利益率 利益

被告テープ 二〇万円 二〇% 四万円

アジャスターフック 五〇〇万円 四〇% 二〇〇万円

被告トリム 五〇万円 五〇% 二五万円

したがって、被告が被告商品を販売して得た利益は月額二二九万円を下らない。

平成三年一〇月から同年一二月までの間に被告の得た利益は総額六八七万円であり、右の利益は原告の被った損害と推定される(不正競争防止法五条一項)。

2 弁護士費用

原告は、原告代理人両名に本件訴訟を委任し、弁護士費用として三五〇万円を支払うことを約した。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

第四  争点に対する判断

一  争点1(原告表示は商品表示性を有し、周知性を取得しているか)及び争点2(「バルーンテープ」、「レーストリム」の各表示は不正競争防止法一一条一項一号の普通名称に該当するか)は、密接に関連するので、一括して判断することとする。

1  「バルーンテープ」の表示について

(一) 証拠(甲第一号証の3、第二、第六、第二七、第三八号証、第四〇号証の1~4、第四一ないし第五一号証、乙第六ないし第一一号証、証人山中俊通、証人大橋良美、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) いわゆるスタイルカーテン

カーテンの中で装飾性の強いものは、スタイルカーテンと呼ばれ、昇降式のローマンシェードと称されるものと、固定式のもの(左右に開閉するものを含む。)とに分けられる。

ローマンシェードの中には、プレーンタイプ(シェードを下げたときは平面な状態で、引き上げるとたたみあがるもの)、バルーンタイプ(シェードを下げたときは普通のひだの付いたカーテンと同じで、少し引き上げると裾にふっくらとした丸みができ、ボリューム感が生まれるもの)、オーストリアンタイプ(シェード全体に丸みのある細かいひだを付けたもの)があり、それぞれプレーンシェード、バルーンシェード、オーストリアンシェードと呼ばれる。これらの呼称は、平成三年一〇月頃に日本インテリアファブリックス協会が統一したものである。

固定式のスタイルカーテンの中にも、バルーンタイプ(カーテンの裾にのみゆるやかな丸みのあるひだを付けたもの)、オーストリアンタイプ(カーテン全体にゆるやかな丸みのあるひだを付けたもの)があり、それぞれバルーンカーテン、オーストリアンカーテンと呼ばれる。

(2) バルーンカーテン

スタイルカーテンは、昭和四六年頃外資系の日本フィスバによってオーストリアンタイプのものが輸入販売され、その後国内の業者によって製造販売されるようになったものであるが、国産の既製品のスタイルカーテンは、縦方向のひだを付けたり左右に開閉するものだけであったところ、昭和六〇、六一年頃、訴外株式会社カネトモは、横方向のひだを付けたバルーンカーテンの製造販売を始めた。「バルーンカーテン」という名称も、同社の蝦澤裕司が考え出したもので、絞り込めば横方向のひだが上に上がっていくことからアドバルーンをイメージして名付けられたものである。

株式会社カネトモでは、当初、バルーンカーテンのひだの部分をミシンで縫い上げていたため、これを包装すると通常のカーテンの三倍ほどの分量になりかさばることから、販売先である百貨店の評判が悪く、一年ほどでその製造を中止した。

そして、株式会社カネトモは、昭和六二年頃、バルーンカーテンに二七㎜等の幅の狭いギャザーテープを縦に縫い付けただけでひだは付けないで出荷し、取扱説明書を包装袋の中に入れておき、これを購入した消費者において右ギャザーテープの紐を絞り込んで裾の好みの位置までひだを付けてもらうという方法をとった。この方法の採用により、出荷の際にかさばることもなくなったので、百貨店への販売が順調に行われ、平成元年頃にはダイエーやイトーヨーカドー等の量販店にも販売されるようになった。

これに伴い、平成一、二年頃には、他社もバルーンカーテンの製造販売に参入し、「バルーンカーテン」の名称も使用するようになった。近時の例では、平成六年一月頃発行された株式会社千趣会のカタログ(乙第六号証)中には「バルーンカーテン」の表示が使用されており、そのほか、平成四年六月頃作成のイズミヤ株式会社のチラシ(乙第七号証)中には「バルーンスタイルレースカーテン」の表示が、平成五年一一月頃作成の水谷功株式会社のチラシ(乙第八号証)中には「フリル付スタイルカーテン」の一種として「バルーン」の表示が各使用されている。

なお、現在、株式会社カネトモは、カーテンについては既製品のバルーンカーテンを主力製品としている。

(3) 原告テープ、「バルーンテープ」の表示

株式会社カネトモでは、バルーンカーテンに横方向のひだを付けるために縦に縫い付けるテープとして、当初、右のように通常のギャザーテープのうち細幅のものを使用していた。しかし、ギャザーテープは、本来カーテンに縦方向のひだを付けるためにカーテンの上端部に横に縫い付けるものであるため、通常フックを差し込む穴(ポケット)が設けられているところ、バルーンカーテンにひだを付けるためにギャザーテープを用いる場合にはポケットは不要であり、ポケットを設けない方が安くつくため、株式会社カネトモは、原告に対し、バルーンカーテン用のギャザーテープとして、ポケットのないものを作るよう要請し、また、レースのバルーンカーテンに綿のギャザーテープを使用すると目立つので、レースのバルーンカーテン用にメッシュの薄いギャザーテープも作るように要請した。

このようにして開発されたのが原告テープであり、原告はこれを株式会社カネトモに販売していた。

原告は、平成二年一月頃から、原告テープに「バルーンテープ」の表示を使用して他のカーテン製造業者等にも販売するようになった。これは、原告テープがもともとバルーンカーテン用に開発されたことに由来するものである。現在でも、株式会社カネトモは既製品のバルーンカーテンを製作するために原告から原告テープを買い受けているが、原告テープをオーストリアンシェードにひだを付けるのに用いている得意先が多い。

原告テープを用いてバルーンカーテンを製作する場合は、カーテンの裏面に縦に原告テープを縫い付け、原告テープの紐を絞り込み、カーテンの裾の部分のみに横方向の波形のひだを作る。

原告テープを用いてオーストリアンシェードを製作する場合は、カーテンの裏面に縦に原告テープを縫い付け、原告テープの紐を全面にわたって絞り込み、その縫い付け部分を等間隔で折り重ねて全面に横方向の波形のひだを作り、最後に折り重ねた部分を更にミシンで縫い付ける。そして、原告テープ自体によってはカーテンを昇降できないため、このほかに昇降用のリングテープを縫い付ける。このように、オーストリアンシェードは、最終的にはミシンで縫い付けてひだを固定するものであるから、必ずしも原告テープを必要とするわけではないが、原告テープを使用すれば、全面的に横方向の波形のひだを作る作業が容易になるものである。

(4) 被告テープ

被告は、株式会社カネトモ以外の会社も既製品のバルーンカーテンの製造販売に参入するようになった頃、得意先から、バルーンカーテンに使用するテープを作ってほしいと依頼され、被告テープを開発した。

被告テープも、その使用方法は原告テープと全く同じである。

被告は、平成三年一〇月頃被告カタログを制作したが、その「バルーンテープ」の商品説明に、「オーストリアンカーテン、バルーンカーテンの簡単なスタイルカーテンの使い方ができるテープ」と記載している。

(5) 原告による「バルーンテープ」の表示の使用状況

原告は、平成二年一月三一日発行の原告カタログ九〇・九一年度版(甲第一号証の3)、平成三年一月二一日発行の原告カタログ九一・九二年度版に「バルーンテープ」の表示を使用して原告テープを写真入りで掲載し、原告カタログ九〇・九一年度版を五〇〇〇部、原告カタログ九一・九二年度版を八〇〇〇部印刷し、カーテンの製造販売業者に頒布した。

原告は、平成二年二月一日から同月四日までの間東京で開催された室内インテリア商品に関する見本市「ジャパンテックス九〇」(日本インテリアファブリックス協会主催、出展者数二四七社二四団体、入場者延べ約九万三〇〇〇名)及び平成三年一月三一日から同年二月三日までの間幕張で同程度の規模で開催された「ジャパンテックス九一」に出展し、右各見本市において、前記の原告カタログ九〇・九一年度版五〇〇〇部、原告カタログ九一・九二年度版八〇〇〇部のうち、それぞれ二〇〇〇部ないし三〇〇〇部程度を配布した。

右原告カタログ九〇・九一年度版(甲第一号証の3)では、原告は、「ギャザーテープ」の大見出しの中で、カーテンに縦方向のひだを付けるためにカーテンの上端部に横に縫い付ける通常のギャザーテープを、製造地別に「スペイン製ギャザーテープ」、「日本製ギャザーテープ」、「西ドイツ製ギャザーテープ」、「フランス製ギャザーテープ」、「イタリア製ギャザーテープ」の小見出しのもとに掲載し、これらとは別に「バルーンテープ」の小見出しのもとに原告テープを掲載したうえで、商品の説明として「ローマンスタイルカーテンのオーストリアンタイプの使い方ができるバルーンタイプ専用テープです。」と記載している。

(二) 原告は、「バルーンテープ」の表示は、平成二年二月四日頃若しくは平成三年二月三日頃、又は遅くとも被告が被告カタログを制作し「バルーンテープ」の表示の使用を開始した平成三年一〇月頃までには、カーテン資材を購入するカーテンの製造業者及び販売業者等の間において原告の販売する原告テープを表示するものとして周知性を取得するに至ったと主張するので、右(一)認定の事実に基づいて検討する。

右認定事実によれば、原告テープは、株式会社カネトモの要請により原告がバルーンカーテンにひだを付けるテープとして開発したものであって、すなわち、株式会社カネトモでは、バルーンカーテンに横方向のひだを付けるために縦に縫い付けるテープとして、当初、カーテンに縦方向のひだを付けるためにカーテンの上端部に横に縫い付ける通常のギャザーテープのうち細幅のものを使用していたところ、バルーンカーテンでは右通常のギャザーテープに設けられているフック用の穴(ポケット)は不要であるため、原告に対しポケットを設けないギャザーテープを作るよう要請したことから、原告が開発したものであり、そして、原告は、平成二年一月頃から原告テープに「バルーンテープ」の表示を使用するようになったが、その表示は原告テープがもともとバルーンカーテン用に開発されたことに由来するものであり、その後、オーストリアンシェードにひだを付けるのに用いられることが多くなった、というのである。原告が、原告カタログ九〇・九一年度版(甲第一号証の3)において、「ギャザーテープ」の大見出しの中で、通常のギャザーテープを製造地別に「スペイン製ギャザーテープ」等の小見出しのもとに掲載し、これらとは別に「バルーンテープ」の小見出しのもとに原告テープを掲載したうえで、商品の説明として「ローマンスタイルカーテンのオーストリアンタイプの使い方ができるバルーンタイプ専用テープです。」と記載しているのは、固定式のカーテンとローマンシェードとの区別が明確にされていないものの、もともとバルーンカーテン用に開発され、その後オーストリアンシェードにも用いられるようになったという経緯を反映しているものである。原告は、原告カタログ九〇・九一年度版の右記載は、カーテンの種別について正確な知識を持ち合わせていないカタログ制作会社有限会社アングルの担当者が、あいまいな知識に基づいてそれらしきことを記載したいわば誤記とでもいうべきものであり、意味不明なものであると主張するが、採用することができない。

したがって、原告テープについての「バルーンテープ」の表示は、その言葉自体の性質上、バルーンカーテンに使用されるテープという一般的な意味を直ちに想起させるものであって、本来自他商品識別力の極めて乏しい表示であり、特に原告テープがバルーンカーテンに用いられる場面に関する限り、原告テープの用途を端的に表現する普通名称というべきものであり、「ギャザーテープ」のうちの特殊な種類を示す下位概念ということができ(前記のとおり、原告テープは商品自体としてもギャザーテープのうちの特殊なものであり、原告カタログ九〇・九一年度版において、原告自身、「ギャザーテープ」の大見出しの中で、「スペイン製ギャザーテープ」等の小見出しとは別に、「バルーンテープ」の小見出しのもとに原告テープを掲載している。)、更に、原告が原告テープに「バルーンテープ」の表示を使用したのは右のとおり平成二年一月頃からで、原告カタログに掲載したのも平成二年一月三一日発行の九〇・九一年度版からであるというのであり、しかも右原告カタログ九〇・九一年度版自体に原告テープはバルーンタイプ(固定式のカーテンかローマンシェードかは明確でないが)に使用するものであることが明記されているのであるから、右原告カタログ九〇・九一年度版が配付された前記「ジャパンテックス九〇」の最終日である平成二年二月四日頃、原告カタログ九一・九二年度版が配付された「ジャパンテックス九一」の最終日である平成三年二月三日頃、あるいは被告カタログが発行された平成三年一〇月頃までに、「バルーンテープ」の表示がカーテン資材を購入するカーテン製造業者及び販売業者等の間において原告の販売する原告テープを表示するものとして周知性を取得するに至ったとは到底認められない(現在においても、特段の事情の変化は認められない。)。

そうすると、被告に対し「バルーンテープ」の表示の使用差止め及び抹消を求め、被告が「バルーンテープ」の表示を使用して被告テープを販売したことによる損害の賠償を求める請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないというべきである。

2  原告規格表示について

(一) 証拠(甲第一号証の1~3、第二ないし第五号証、第七号証の1~33、第八ないし第一一号証、第一二号証の1~31、第一三号証の1~51、第一四号証の1~65、第一五号証の1~55、第一六号証の1~43、第一七号証の1~50、第一八号証の1~37、第一九号証の1~20、第二〇号証の1~41、第二一号証の1~35、第二五ないし第二七号証、第三七号証、第四一ないし第五一号証、乙第一二ないし第一七号証、検甲第一号証の1・2、第二ないし第四号証、第五号証の1・2、第六、第七号証、証人山中俊通、証人大橋良美、証人中村孝正、被告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) アジャスターフック

〈1〉 インテリアの総合商社であるムーラントータリア株式会社に勤務していた大橋良美は、昭和四六年頃、前記日本フィスバが輸入して国内で販売していた「スライドフック」という、カーテンをカーテンレールのランナーに引っ掛けるのに使用する一種のカーテンフックに注目し、原告(当時の代表取締役は現代表取締役の父)に同種の商品の製造を提案したが、採用されなかった。スライドフックは、カーテンに固定される本体部と、ランナーに引っ掛けられる引っ掛け部からなり、引っ掛け部の位置を上下にスライドさせることによりカーテン丈を調整することができるものである。英米の文献では、以前から、この種のフックの機能について、アジャスト(adjust調整)できる、との説明がなされている。

〈2〉 大橋良美の提案はその後原告現代表取締役の採用するところとなり、原告は、昭和五八年頃、スライドフック同様、引っ掛け部の位置を上下にスライドさせることによりカーテン丈を調整することができるカーテンフックに「アジャスターフック」の名称を付して販売を開始した。右名称は、商品の機能(adjust調整)、当時他社が販売していた伸縮式カーテンレールの名称「アジャスター」等を参考に決定されたものである。

当初のアジャスターフックは、本体部が金属、引っ掛け部がプラスチックからなり、本体部と引っ掛け部を鑞付けしたものであって、本体部をカーテン上端部に差し込んで固定するもの(差込み式)であったが、鑞付け部分が破損して本体部と引っ掛け部が外れる等の問題があったので、原告は、昭和五九年頃から本体部も含めた全体がプラスチック製のアジャスターフック(差込み式)の製造販売を開始し、後に縫い込み式のものも製造販売するようになった。

〈3〉 原告が現在製造販売しているアジャスターフックは、全体がプラスチック製のもののみであり、カーテンへの固定方法により差込み式と縫い込み式、対応するカーテン芯地の幅により七五mm用のものと九〇mm用のもの、仕様によりAタイプのもの(レースのカーテンに使用されるもので、カーテンレールの下にカーテンが位置する。)とBタイプのもの(ドレープカーテンに使用されるもので、カーテンレールを隠すようにカーテンが上方に位置する。)、色により白とクリスタル(透明)とナチュラル(自然色)に分けられる(なお、「Aタイプ」、「Bタイプ」の呼称は業界においてごく一般的である。)。また、同じ規格の商品の中でも、最初に開発したタイプのものをタイプⅠ、次に開発したタイプのものをタイプⅡと称しており、タイプⅠからタイプⅤまでがある。

〈4〉 原告の製造するアジャスターフックの中には、原告自身の名で販売されるもの以外に、原告の供給先の名で販売されるもの(いわゆるOEM)がある。これらの商品は、原告自身の名で販売されるものと若干形状が異なるものの、基本的な構造は同一である。このように供給先の名で販売されているアジャスターフックの供給先(販売元)と商品名として、エスエム工業株式会社の「NEWアジャスターフック75」、株式会社日中製作所及び立川ブラインド工業株式会社の「スライドフック」、装研株式会社の「スーパーフック」「アジャスタブルフック」「UDフック(縫い込み式)」、川島織物株式会社の「Ktmアジャスターフック」、岡田装飾金物株式会社の「アジャスターフック」等がある。その他、住之江織物株式会社、常盤商事株式会社、シンコール株式会社、大装株式会社、兼坂商事株式会社等も原告製造のアジャスターフックを自社の名で販売している。

〈5〉 一方、有限会社友安製作所は、昭和五八年頃から、原告のアジャスターフックと同種の機能を有する商品を「アジャスターフック」の名称で製造販売し、被告はこれを購入して販売していた。有限会社友安製作所が当時製造していた「アジャスターフック」は、本体部が金属、引っ掛け部がプラスチックからなっている。

また、株式会社ヨコタは、昭和五八年二月頃から、原告のアジャスターフックと同種の機能を有する商品を「アジャストフック」の名称で販売していた。右の「アジャストフック」は、本体部及び引っ掛け部の全体が金属からなるものであるが、株式会社ヨコタは、平成二年四月頃には、このほか、本体部が金属、引っ掛け部がプラスチックからなる「アジャストフックレギュラー」も販売している。

その他、原告のアジャスターフックと同種の商品を、トーソーが「アジャスタフック」の名称で製造販売し、フジホーム株式会社が被告から供給を受けて「アジャスターフック」の名称で販売している。

〈6〉 被告は、アジャスターフックを、一部は自社で製造して販売し、一部は有限会社友安製作所及び装研株式会社から購入して販売している。

(2) 原告規格表示の内容

原告は、昭和五九、六〇年頃、コンピューターを導入するに際し、商品ごとにコンピューターコードを作る必要が生じ、覚えやすさ、作業のしやすさという点から、数字のみのコードではなく、英文字と数字との組合せのコードによることにし、原告規格表示の採用を決めた。

原告規格表示は、冒頭にアジャスターフックを略した「AJ」を配し、次に、本体部が金属製のものについては特に英文字を入れず、全体がプラスチック製で差し込み式のものについてはプラスチック製であることを示す「P」、全体がプラスチック製で縫い込み式のものについてはsewingの略である「S」(縫い込み式のものは全体がプラスチック製のもののみであるので、「PS」とはしない。)を配し、その次に、対応するカーテン芯地の幅(mm)に応じ「75」又は「90」、AタイプかBタイプかを示す「A」又は「B」、色を示す「W」(whiteの略。但し、「白」と表示される場合もある。)、「C」(crystalの略)又は「N」(naturalの略)を配する、というものである。更に、タイプⅡの開発以後は、これに続けてタイプⅠないしタイプⅤのいずれであるかを示す「I」ないし「V」を配している。但し、現在では、原告は、前記のとおりアジャスターフックは全体がプラスチック製のものしか製造販売していないため、コンピューターコードではプラスチック製を示す「P」を使用していないが、伝票等では従来からの顧客の便を図って「P」を残している。

(3) 原告規格表示の使用状況

原告製造のアジャスターフックの取引において、原告の取引先が電話により発注する場合、原告規格表示によりアジャスターフックのどの規格のものであるかを特定、確認している。

また、原告の取引先がアジャスターフックを発注伝票によって発注するに当たっては、原告規格表示のみを使用する場合、「アジャスターフックⅡ白75m/mB」というように「AJ」の表示を使用しない場合、及び「アジャスターフックAJOO」というように併用する場合があり、原告規格表示のみを使用する場合が全体の半分程度であるが、その場合、英文字や数字の順序は必ずしも原告で使用しているものと一致しているとは限らない。

そのうちエスエム工業株式会社の原告に対する発注伝票では、エスエム工業株式会社が原告の商品そのものとして販売するアジャスターフックについては、「フックAJP75タイプⅡB」(甲第七号証の1等)というように「フック」の表示とともに原告規格表示を記載し、川島織物株式会社に納入し同社が自社の名で販売するアジャスターフックについては、「Ktmアジャスターフック75A白」(甲第七号証の2等)というように川島織物株式会社の使用している商品名及び後記規格表示ないし品番を記載し、エスエム工業株式会社自身の名で販売するアジャスターフックについては、「NEWアジャスターフック75m/m」(甲第七号証の3等)というように自社の商品名を記載している。

原告がアジャスターフックを箱詰めする際には、それ自体には何の表示もないパッキングケースを使用し、これにラベルを貼付しているが、右ラベルの上部には原告規格表示(「AJP90-A白」)等を印刷し、タイプⅡ、タイプⅢのものについてはこれに加えてその中央部にアジャスターフックの写真及び「タイプⅡ」又は「タイプⅢ」の表示を印刷したラベルを重ねて貼付している。

原告は、原告カタログの昭和六二年発行の八七・八八年度版(甲第一号証の1)、平成元年一月二〇日発行の八九・九〇年度版(甲第一号証の2)、九〇・九一年度版、九一・九二年度版に、アジャスターフックの写真とともに原告規格表示を掲載した。例えば、原告カタログ八七・八八年度版では、「アジャスターフック」の見出しのもとに中央部に大きく七種類の原告製アジャスタースターフック(OEM製品を含む。)の写真が掲載され、左下に使用方法の説明図が、右下に商品の名称、特長が記載され、更にその下の「品番」の欄に「アジャスターフック75mmA AJP-75A」等と記載されている。

原告は、原告カタログ八九・九〇年度版を五〇〇〇部印刷し、これを平成元年一月二六日から同月二九日までの間東京で開催された「ジャパンテックス八九」等でそれぞれ頒布した。原告カタログ九〇・九一年度版、九一・九二年度版の印刷頒布、「ジャパンテックス九〇」、「ジャパンテックス九一」における配布の状況については、前記1(一)(5)認定のとおりである。

(4) 他社におけるアジャスターフックの規格表示ないし品番

前記(1)〈4〉の各社のうち、株式会社日中製作所は「スライドフック」の七五mmの芯地用のものにつきF-70S、九〇mmの芯地用のものにつきF-90Sを、立川ブラインド工業株式会社は「スライドフック」につきPSD-75を、装研株式会社は「スーパーフック」の七五mmの芯地用のものにつきNo.100又はNo.102、九〇mmの芯地用のものにつきNo.101又はNo.103、「アジャスタブルフック」の七五mmの芯地用のものにつきNo.001又はNo.003、九〇mmの芯地用のものにつきNo.002又はNo.004、「UDフック」の九〇mmの芯地用のものにつきNo.006又はNo.0010UDを(いずれも、一梱包当たりの本数による区別)、川島織物株式会社は「Ktmアジャスターフック」につき75A白、75B白を、岡田装飾金物株式会社は「アジャスターフック」につきNo.5157をそれぞれ規格表示ないし品番として使用している。

また、同〈5〉の株式会社ヨコタは、「アジャストフック」の七五mmの芯地用のものにつき商品名(細分類)「アジャストフックJ75」、製品番号C6501、一〇〇mmの芯地用ものにつき商品名(細分類)「アジャストフックJ100」、製品番号C6502を、「アジャストフックレギュラー」の七五mmの芯地用のものにつき商品名(細分類)「アジャストフックレギュラーJE75P」、製品番号C6703、九〇mmの芯地用のものにつき商品名(細分類)「アジャストフックレギュラーJE90P」、製品番号C6704を使用し、フジホーム株式会社は、「アジャスターフック」の七五mmの芯地用のものにつきAJ75、九〇mmの芯地用のものにつきAJ90の表示を使用している。

被告は、有限会社友安製作所からアジャスターフックを購入しはじめた当初から、「AJ75P」というように規格表示として「アジャスターフック」の略である「AJ」、対応する芯地の幅を示す「75」等を使用している。

(二) 原告は、原告規格表示は、原告がその表示中にアジャスターフックの品質用途に関する重要な情報を簡略に余すところなく表現するよう考慮を巡らして創作したものであり、極めて創作性の強い特別顕著性を有する表示であり、原告が独占的に、各種の広告文書や納品書、伝票等の取引書類においてひんぱんに使用し、原告カタログ八七・八八年度版以降毎年、主力商品としてアジャスターフックを宣伝する際に必ず使用するなどして宣伝と普及に努めた結果、取引業者の間では原告の商品表示として使用されあるいは認識されるに至っており、平成二年二月四日頃若しくは平成三年二月三日頃、又は遅くとも被告が被告カタログを制作し被告規格表示の使用を開始した平成三年一〇月頃までには周知性を取得した旨主張するが、前記(一)認定事実によれば、以下のとおり、原告規格表示は、あくまで原告が原告自身の名で販売するアジャスターフックの規格を表す規格表示であり、その使用状況に照らして原告の多くの商品の中からアジャスターフックのある規格のものを特定する機能を果たしているにとどまり、未だそれを超えて自他商品を識別する商品表示としての機能を果たしているとは認められない。

(1) まず、原告規格表示のうち、「AJ」の部分は、アジャスターフックの略称であることは取引者であれば容易に想起することができるものと考えられ、「75」「90」の部分は、対応する芯地の幅をそのままの数値で示したものであり、いずれも特別顕著性を有するものとは認められない。対応する芯地の幅をそのまま規格表示ないし品番に使用することは、フジホーム株式会社の規格表示は同社が被告から商品の供給を受けているからこれを除外するとしても、原告が商品を供給している株式会社日中製作所、立川ブラインド工業株式会社、川島織物株式会社の規格表示ないし品番に見られるだけでなく、株式会社ヨコタの商品名(細分類)「アジャストフックJ75」、「アジャストフックレギュラーJE75P」等にも見られるものである。被告も、昭和五八年頃に有限会社友安製作所からアジャスターフックを購入しはじめた当初から、「AJ75P」というように規格表示としてアジャスターフックの略である「AJ」、対応する芯地の幅を示す「75」を使用しているところである。

また、「A」又は「B」の部分も、「Aタイプ」(レースのカーテンに使用されるもので、カーテンレールの下にカーテンが位置する。)、「Bタイプ」(ドレープカーテンに使用されるもので、カーテンレールを隠すようにカーテンが上方に位置する。)の呼称が業界においてごく一般的である以上、この部分に特徴があるとはいえない。

その他、「P」「S」、「W」「C」「N」、「I」ないし「V」の部分を含めた原告規格表示全体として見ても、格別の特徴があるということはできない。

(2) 原告は、原告はアジャスターフックに関してはわが国における全生産量の七割を生産している業界のトップメーカーであり、そのアジャスターフックはカーテン等の製造メーカーや問屋、量販店だけではなく、末端のカーテン縫製業者にも広く使用されており、原告の取引先は日本全国にわたり一〇四九社の多きに上っている(甲第一一号証の販売網分布表)と主張するが、仮にそうであるとしても、そのことから直ちに原告規格表示が商品表示性を取得しているということにはならない(原告がアジャスターフックのわが国における全生産量の七割を生産しているとの事実については、これを認めるに足りる証拠もない。)。

また、原告の取引先がアジャスターフックを発注伝票によって発注するに当たっては、原告規格表示のみを使用する場合、「アジャスターフックⅡ白75m/mB」というように「AJ」の表示を使用しない場合、及び「アジャスターフックAJOO」というように併用する場合があり、原告規格表示のみを使用する場合が全体の半分程度であるが、その場合、英文字や数字の順序は必ずしも原告で使用しているものと一致しているとは限らないことは前記(一)(3)認定のとおりであるところ、「アジャスターフックAJOO」というように併用する場合は、原告規格表示が単なる規格表示として使用されているにすぎないことが明らかである(このことは原告も実質的に自認するところである。)。「アジャスターフックⅡ白75m/mB」というように「AJ」の表示を使用しない場合につき、原告は、規格表示としては「Ⅱ」「白」「75m/m」「B」が使用され、「AJP」「AJS」は規格表示としては使用されていない旨主張するが、「AJP」「AJS」が表記されていないからといって、直ちに「AJP」「AJS」が商品表示としての性質を有するとはいえない。かえって、「AJ」の部分は、前記のとおりアジャスターフックの略称であることが取引者であれば容易に想起することができるものであるため、「アジャスターフック」と記載すれば重ねて「AJ」と表記するまでもないと考えて「AJ」の記載を省略したものと推認される(全体がプラスッチク製で差込み式のものを示す「P」、全体がプラスッチク製で縫い込み式のものを示す「S」については、従前の取引からいずれを発注するのか明らかであるため、省略したものと思われる。)。原告規格表示のみを使用する場合も、「AJ」の部分は、アジャスターフックの略称であることが取引者であれば容易に想起することができるものであるから、重ねて「アジャスターフック」と記載するまでの必要がないと考えたものと推認される。しかも、いずれの場合も、原告に対して発注するものであることを認識したうえで原告の販売している商品の中からどの商品を発注するかを発注伝票において特定していることはいうまでもないから、「アジャスターフックⅡ白75m/mB」の表示及び原告規格表示が原告の商品と他の業者の商品とを識別するための商品表示として使用されているとは認められない。

エスエム工業株式会社の原告に対する発注伝票において、エスエム工業株式会社が原告の商品そのものとして販売するアジャスターフックについて「フックAJP75タイプⅡB」というように「フック」の表示とともに原告規格表示を記載しているのも、原告の製造するアジャスターフックの中で、川島織物株式会社に納入し同社が自社の名で販売する「Ktmアジャスターフック75A白」及びエスエム工業株式会社自身の名で販売する「NEWアジャスターフック75m/m」と区別、特定するためであって、原告の商品と他の業者の商品とを識別するための商品表示として使用されているとは認められない。

更に、原告がアジャスターフックを箱詰めする際には、それ自体には何の表示もないパッキングケースを使用し、これにラベルを貼付しているところ、右ラベルの上部には原告規格表示(「AJP90-A白」等)を印刷し、タイプⅡ、タイプⅢのものについてはこれに加えてその中央部にアジャスターフックの写真及び「タイプⅡ」又は「タイプⅢ」の表示を印刷したラベルを重ねて貼付しているが、同様の理由により、商品表示として使用されているとは認められない。

(3) 原告カタログについて、原告が八七・八八年度版以降アジャスターフックの写真とともに原告規格表示を掲載し、これを「ジャパンテックス」等で頒布していることは前認定のとおりであるが、原告規格表示の掲載方法は目立つものではないし、もとより商標(商品表示)として掲載されているわけではなく、常に「アジャスターフック」という商品名の見出しのもとに、掲載頁の大部分を占める写真に付記する形で、品番として掲載されているにとどまるものである。

(三) そうすると、被告に対し被告規格表示の使用差止め及び抹消を求め、被告が被告規格表示を使用してアジャスターフックを販売したことによる損害の賠償を求める請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないというべきである。

3  「レーストリム」の表示について

(一) 証拠(甲第一号証の2・3、第二ないし第五号証、第四一ないし第五一号証、乙第一ないし第五号証、第一八号証の1~5、証人山中俊通、証人大橋良美、被告代表者)に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

(1) レースのカーテン用の縁取り材

わが国では、従来、縁取り材は、ドレープのカーテンであるとレースのカーテンであるとを問わず、カーテンにはあまり使用されず、劇場の緞帳やピアノカバーに多く使用されており、フリンジと呼ばれていた。

その後、いわゆるバブル経済の時代に高級化志向が高まってから、レースのカーテンに縁取り材を使用することが行われはじめた。その名称としては、トリムあるいはトリミングス、マクラメレース等が用いられていた。

(2) 原告トリム、「レーストリム」の表示

原告は、平成元年(昭和六四年)初め、レースのカーテン用の縁取り材のうち、材料がポリエステル一〇〇パーセントのもの(原告トリム)を「レーストリム」と称して売り出すことにした。これは、綿(コットン)の入ったものに比べ光沢があるので、その独自性を強調するためである。綿(コットン)の入ったものについては、マクラメタイプのトリム、マクラメレース等と称した。

(3) 他社におけるレースのカーテン用の縁取り材の名称

川島織物株式会社は、レースのカーテン用の縁取り材を積極的に販売しているが、原告にやや遅れてこれに「レーストリム」の名称を使用している。

また、東り株式会社(旧商号・東京リノリウム株式会社)は、昭和六三年二月二二日発行のカタログ「東リカーテンVol.3」以来、レースのカーテン用の縁取り材に「レース用トリム」の名称を使用している。

更に、エスエム工業株式会社も、平成三年一〇月頃以降レースのカーテン用の縁取り材に「レーストリム」の名称を使用している。

(4) 原告による「レーストリム」の表示の使用状況

原告は、原告カタログ八九・九〇年度版、九〇・九一年度版、九一・九二年度版に原告トリムを掲載する際、「レーストリム」の表示を使用した。右各原告カタログの印刷頒布、「ジャパンテックス八九」、「ジャパンテックス九〇」、「ジャパンテックス九一」における配布の状況は前記1(一)(5)、2(一)(3)認定のとおりである。

なお、原告カタログ九一・九二年度版では、ポリエステル七〇パーセント、レーヨン三〇パーセントのレース用縁取り材にも「レーストリム」の表示が使用されたことがあるが、原告は、誤りであるとして右商品をすぐに廃番にした。

(二) 原告は、「レーストリム」の表示は平成二年二月四日頃若しくは平成三年二月三日頃、又は遅くとも被告が被告カタログを制作し「レーストリム」の表示の使用を開始した平成三年一〇月頃までには、カーテン資材を購入するカーテンの製造業者及び販売業者等の間において原告の販売する原告トリムを表示するものとして周知性を取得するに至ったと主張する。

しかし、右(一)認定の事実によれば、「レーストリム」の表示のうち、「レース」は、原告トリムが使用されるカーテンの種類(レースのカーテン)を示すものであって何ら特異なものではなく、「トリム」は、レースのカーテンに使用される縁取り材の一般的な名称にすぎず、「レース」と「トリム」を結合した「レーストリム」の表示は、その言葉自体の性質上、レースのカーテンに使用されるトリム(縁取り材)という一般的な意味を直ちに想起させるものであり、レースのカーテン用の縁取り材について、東り株式会社は、原告が「レーストリム」の表示を使用する一年近く前から「レース用トリム」の名称を使用し、川島織物株式会社は原告よりやや遅れて「レーストリム」の表示そのものを使用しているのであるから、「レーストリム」の表示は、原告トリムを含むレースのカーテンに使用されるトリム(縁取り材)の用途を端的に表現する普通名称というべきものであって、前記原告カタログの頒布状況を考慮に入れても、原告主張の頃までに「レーストリム」の表示がカーテン資材を購入するカーテン製造業者及び販売業者等の間において原告の販売する原告トリムを表示するものとして周知性を取得するに至ったとは、到底認められない(現在においても、特段の事情の変化は認められない。)。

原告がレースのカーテン用の縁取り材のうち、材料がポリエステル一〇〇パーセントのものに限って「レーストリム」の表示を使用していることは前認定のとおりであり、原告は、本件訴訟においてこの点を強調するのであるが、原告が原告カタログ等の宣伝広告において右の点を特に取り上げて「レーストリム」の表示を使用していると認めるに足りる証拠はなく、原告の使用する「レーストリム」の表示が他社の使用する「レーストリム」、「レース用トリム」の表示と区別される特別の意味を有するものとして取引業者の間に認識されるに至っているとは認められない。

そうすると、被告に対し「レーストリム」の表示の使用差止め及び抹消を求め、被告が「レーストリム」の表示を使用して被告トリムを販売したことによる損害の賠償を求める請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。

第五  結論

よって、原告の請求をいずれも棄却することとする。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 本吉弘行)

目録

番号 商品名 商品の説明 被告の表示

一、 ギャザーテープ 別紙(一)のごとき形態をしたオースリアン型カーテン及びバルーン型カーテンを作るのに用いられるギャザーテープ。 「バルーンテープ」

二、 アジャスターフック 別紙(二)のごとき形態のポリアセタール製、ポリカーボネイト製のカーテンフックであり、差込み式、縫い込み式によってフックの位置が自由に調節できるもの。 「AJN75」「AJN90」「AJS75」「AJS90」その他、右のように最初に「AJ」の二文字を用い、末尾に対応するカーテン芯地を表す数字を付加した規格表示。

三、 トリム又はトリミング 別紙(三)のごとき形状のカーテンの縁取り用材。 「レーストリム」

別紙(一)

〈省略〉

別紙(二)

〈省略〉

別紙(三)

〈省略〉

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